プログラミング 美徳の不幸

Ruby, Rails, JavaScriptなどのプログラミングまとめ、解説、備忘録。

本当の戦犯

最近会社の有志(といっても全員だが)でなんでもいいから本を読んで感想などを共有する取り組みを始めた。 読書を他人に強制したいということはなく、こうでもしないと自分の読書習慣がどんどん削られてしまうので無理やり言い出しっぺになってみた。

読む本はもうなんでもありで、この週末は量子コンピュータと昭和史という、全然関係のない興味で読んだ。

日本史はあまりわからないんだけど、さすがに明治あたりからは世界史でも習ったから出てくる言葉は一通り知っている。しかし大学受験の勉強は効率優先で内容を楽しむ余裕はなかったから、改めて読むといろいろ理解できて面白い。張作霖がどういう人間だったか、柳条湖事件が前代未聞の陰謀であること、スターリンの巧みな外交戦略などなど。

中学高校のときも張作霖爆殺事件や柳条湖事件の概要については聞いていたはずなんですが、一通りの常識を身に着けた今あらためて聞いてみると、およそ近代国家が用済みになった外国人を陰謀で暗殺したり、自作自演の事件を起こして戦争に突入するなど信じられない。しかもそれが、国の独裁者がおかしな決定をして部下を動かしてやったわけではなく、組織のガバナンスが利かずに一機関(関東軍)が勝手な判断で陰謀を起こして、国の中枢がそれに感ずくと隠蔽する。取り返しがつかなくなったあとで「実はあれは・・・」と真相がわかる。

日中戦争、太平洋戦争の細かい敗因、誰が悪い彼が悪いというのは結局ミクロな要因であって、実はこういった組織運営、重視する価値観、非合理主義、石油が米英の陣営に抑えられていること。こういうマクロ要因が時間をかけて発露したのが敗戦だったんだろうなと。

満州事変の引き金となった柳条湖事件(関東軍が中国による攻撃をでっち上げた)を指揮した石原莞爾、本庄繁についてこう書かれている。

この人たちは本来 、大元帥命令なくして戦争をはじめた重罪人で 、陸軍刑法に従えば死刑のはずなんです 。それどころか本庄軍司令官は侍従武官長として天皇の側近となり 、男爵となる 。石原莞爾は連隊長としていったん外に出ますが 、間もなく参謀本部作戦部長となり 、論功行賞でむしろ出世の道を歩みました 。字義どおり 、 「勝てば官軍 」というわけです 。

昭和天皇に戦争責任があるかという重いテーマはいったん置いておいて、一応戦争開始前の天皇の態度は納得度があり、関東軍の陰謀を独自の情報網から感ずくと徹底調査を指示する。しかしながら現場が調査を打ち切ったり、指示を無視する。

僕が「そりゃ負けるよな」と思ったのは次のようなところ。

  • 近代国家がやるとは考えられないような、組織の都合による謀略(張作霖爆殺事件や柳条湖事件)。そして組織統制の欠如
  • 明治憲法の欠陥。軍部に対して政府が指揮できず、軍縮条約の批准が軍部から憲法違反として突き上げられる。
  • もともとドイツと同盟を結ぶのにそこまで積極的ではなかったが、ソ連を含めた四カ国に同盟を拡大することで日中戦争を有利に進めたかった。しかし翌年ドイツがソ連に侵攻したので思惑はパーになった。つまり、ドイツがソ連とも友好関係を築いてくれるという希望的観測
  • 太平洋戦争開戦に踏み切ったのは、ドイツがイギリスを叩きソ連戦も優位に進めるという予測に基づいていた。しかし開戦直前、すでにドイツが負け始めて戦況が変わっていた。事態の変化に対処せず、決定事項を覆すことができなかった
  • 国民だけではなく軍人・政治家といったプロも日本の不敗神話を少し期待していた。例えば競馬で「10年連続で1枠が馬券になってる」みたいな理由で実績以上に1枠が人気しちゃう的な。そういう非合理性は大衆にありがちだけど、プロがそれをやっちゃう。

さて、タイトルの戦犯について。 戦犯というと筆頭は東條英機とあがると思うが、読んでみると東條英機の名前が出てくるのはもう戦局が決定的になり首相一人の考えではどうにも動かせない時局です。で、東條英機主戦論者だけど天皇に対しては忠実だったので、この際天皇とその周辺が陸軍との連絡役に使おうとしているように見える。

一方、独断で柳条湖事件を起こした石原莞爾の影響力は大きく、最終戦争論で拡張主義・覇権主義の思想的バックボーンを打ち出している。そもそも陸軍が言うことを聞かなくなったのには 統帥権干犯問題 が端緒にある。 明治の憲法で陸海空軍は天皇が統帥するという規定があり、統帥権とはここで認められた天皇の権利を指す。普通に読めば天皇が軍隊を指揮するという意味だ。 一見問題ないようだが、読みようによっては 軍隊を指揮できるのは天皇だけである というふうに、独立した権力にも解釈できる。

これを盾にワシントン軍縮会議で政府が決定した事項を軍部が覆すよう迫ったり、関東軍が手柄を優先して政府や陸軍本営の行くことを無視するようになった。これが統帥権干犯問題なのだが、これを入れ知恵したのがどうも北一輝だという。さらに陸軍の中にいた石原莞爾が妙に思想っ気がある人物で、覇権主義的な思想を陸軍の中に広めていった。

こうしてみると、後代の人々が知っている戦犯とは既成のシステムの上にやむにやまれずその役割を演じただけであって、根本問題は北一輝石原莞爾ら思想家、そしてその跋扈を許した明治憲法の欠陥にあるのではないか。

さて、ここまではこの本の中に書いてある内容に私の感想を軽く付け足した程度なんだけど、気になった点がある。これは陰謀論だが、明治憲法にバグがあり、そのバグが統帥権干犯問題として沸き起こり、しかも頼みの天皇天皇機関説とか政治の独立の観点から表立って口出ししづらい雰囲気があった。これは偶然なんだろうか。

また、もう一つ陰謀論が出そうなところで盧溝橋事件がある。日中両軍が偶発的に武力衝突したという事件で教科書では日中戦争の引き金として有名だが、もともとなぜ衝突したかがよくわかっていない。史実では日本軍のほうに弾が飛んできたのは確からしいが、同時に中国軍のほうにも弾が飛んでいるという。いまとなってはどうでもいい話かもしれないが、どうでもいい話こそ真相を知りたがるタイプなので気になってしまう。